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コロナ禍でも拡大するペット関連1.7兆円市場

=犬を飼って分かった最新事情=

2022年10月17日

社会・生活

研究員
芳賀 裕理

 11月1日は「犬の日」。ペットフード工業会(現在の一般社団法人ペットフード協会)が1987年、「ワンワンワン」と犬の鳴き声が3つ並ぶことから定めたという。わが家でも2匹の犬とこの日をお祝いしようと思う。

 筆者が犬を飼った理由は、新型コロナウイルス感染拡大によって増えた在宅時間を充実させるためだ。テレビなどでは筆者同様、犬などのペットを飼う人が増えたという話をよく目にする。実際、ペットフード協会によると、犬の新規飼育者の飼育頭数は、コロナ禍前の2019年に比べ、20年、21年ともに増加している。

犬の新規飼育者飼育頭数
図表(出所)ペットフード協会

 その数字を見ると改めて驚かされる。例えば2021年には約40万頭に上り、日本の出生数約81万人の半分に当たる。犬・ネコを合計するとその数は約89万頭と出生数を上回る。少子化で出生数の減少に歯止めが掛からないのと比べると、ペット飼育の人気ぶりがうかがえる。

 そこで気になるのは、日本のペット関連総市場の規模。矢野経済研究所によるとここ最近、年々右肩上がりで成長を続け、2021年度には小売金額ベースで1兆7187億円に上り、24年度には1兆 8370 億円に増えると予測する。これは21年の国内の出版市場(1兆6742億円、紙と電子の合計)に匹敵する規模であり、経済効果は多大なものがある。

日本のペット関連総市場の規模

図表(注1)2022年度は見込値、23と24年度は予測値
(注2)小売金額ベース
(注3)ペット関連総市場の内訳には、ペットフード、ペット用品、生体、その他ペット関連サービス
(ペット保険、介護ケアサービス、ペット医療、ペット葬儀など)が含まれる
(出所)矢野経済研究所「ペットビジネスに関する調査(2022年)」(2022年8月30日発表)

 内訳を見ると、約半分を占めるのがペットそのものの(生体)とペット保険などの付随するサービス分野。それに次ぐのがペットフードで、年々割合が高まっている点も注目だ。

 ペットショップなどで見かけるペット用品が低めなのは、単価がそれほど高くないことが原因とみられる。

ペット関連総市場に占める各分野の割合

図表(注1)2022年度は見込値、23と24年度は予測値
(注2)小売金額ベース
(出所)矢野経済研究所「ペットビジネスに関する調査(2022年)」(2022年8月30日発表)を基に筆者

 ここからは犬を飼ってわかった筆者の実体験などに基づいて、犬に関するペット関連市場をさらに細分化して最新事情をお届けしたい。

 ①食事

 まずは、日々の出費が最もかさみそうな、食事情について論じてみよう。ペットフードにはさまざまな種類がある。含まれる水分量が少ない順にドライ、ソフトドライ、セミモイスト、ウェットと呼ばれ、犬によって適したものが変わってくるという。

 ここ最近、顕著なのがペットフードの高級化である。従来の安価なペットフードと違って、栄養価や安全性などに配慮した高付加価値商品として価格帯が高いことが特徴だ。矢野経済研究所は「新型コロナウイルス感染症による外出自粛の中、ペットと過ごす時間が増えたことや、ペットにより良いフードを与えたい、コミュニケーションをとりたいという考えから、よりプレミアム指向が強くなったと見られている」と指摘する。

 筆者行きつけのペットショップの店員は「犬が家族の一員として大切に扱われる『家族化』が進んで食に対する意識が高まり、飼い主の嗜好が価格から安全・安心なフードに変化している。最近ではペット先進国であるヨーロッパのプレミアムフードの購入者が多い」と説明してくれた。

 筆者も実は、犬を購入したブリーダーが勧めてくれた英国産のペットフードを与えている。2匹で毎月6500円程度の出費と財布には少々痛いが、「フード選びは健康状態はもちろん、毛並みや涙やけに影響するため非常に重要」というブリーダーのアドバイスに従った。1年以上経っても飽きることなく食いつきが良く、健康なのはこのフードのおかげかもしれない。

写真えさを待つわが家の犬たち
(写真)筆者

 高級化だけでなく、グルメ化も特徴だ。シカ肉やクマ肉などを真空パックした「ジビエ」などを取り寄せて食べさせる飼い主も増えているという。レストランなどでもペット専用の食事やデザートを提供する店も少しずつだが増えてきた。犬友だちの1人は自分の食事よりも時間をかけて犬の食事を作っているという。実際にある料理レシピサイトで犬ご飯と検索すると約3000件もヒットした。

 かわいいペットのためには出費も時間も惜しまない―。飼い犬の食事事情からはそんな意識がくっきりと浮かび上がる。

 ②衣料・小物

 バリエーションが増えているのが衣料や小物の分野だ。ペットショップでは、防寒具や靴といった機能性の優れたものだけではなく、ドレスやワンピース、被れないフードのついたパーカー、スカジャン、浴衣などの季節服、カチューシャ、サングラスといったデザイン性の高い衣料・小物が並ぶ。ペットショップの店員は「従来のシンプルなものからここ最近は、デザイン性の優れたものが増えた」と言う。価格は店や品物によってピンキリだが、中には数十万円もする犬用のインターロッキング模様のコートを販売するブランドショップもある。

 その理由は飼い主の嗜好の変化にある。PLAN-Bが運営をするINUNAVI(いぬなび)が、全国の犬の飼い主541人を対象に、愛犬の服の購入ポイントについて調査したところ、価格やサイズを差し置いて、デザインが一番大事と答えた人が最も多かったという。

 中でもメス用は、フリルやレース調のものなど人間顔負け。売り場面積もオス用より広く取られているようだ。筆者の犬友だちの1人は、かわいい衣服を着せたいがためにメスを購入したという。馬子にも衣装ではないが、かわいいペットをおしゃれに着飾らせたいというのが「親心」。筆者も早速、涼しげなレースのワンピースを試着させてみたところ愛犬がとても可愛く変身し、衝動買いしてしまった。今ではわが家に数十着の犬服が並んでいる。

写真服を着る筆者の犬
(写真)筆者

 ③住居

 飼い犬の「住宅事情」は、最近の飼育方法の変化を反映しているといえるかもしれない。ペットフード協会によると、2021年の犬の「室内飼育」は86.7%と多くの割合を占めるという。つまり、犬小屋よりもゲージや犬用ベッドの需要が圧倒的に強いのだ。特に犬用ベッドはバリエーションが豊富でクッションのようなものから、人間のベッドのようなものまで様々だ。

 筆者は人間用のベッドメーカーが販売するペット用高反発ベッドを購入したが、お気に召さなかったのか、今ではソファに上がるための足場になっている。ベッドは衣服と違ってお試しができないのが難点かもしれない。

 ④その他サービス

 犬を飼ってみて予想以上に出費を迫られるなと感じたのが、健康面に関することである。毎年、ワクチンが必要なことに加え、狂犬病の予防注射やノミダニ予防薬、フィラリア感染症予防薬、避妊・去勢手術のほか、突発的な風邪や食欲不振などで動物病院に行く機会は多い。特に小型犬は膝蓋骨脱臼することが多いということなので注意が必要だ。

 これを反映する形で拡大しているのが、ペット保険市場である。業界トップのアニコム損害保険によると、2010年のペット保険普及率は2.4%だったのが2020年には12.2%まで伸びた。その理由として同社は、①ペット保険の認知度向上②ペットの家族化など―を挙げる。ペット保険の多くはワクチンなどの予防措置や歯科医療措置などは対象外だが、突発的な病気・ケガのほぼすべてに対して治療費を一定割合カバーしてくれる。

ペット保険普及率の推移
図表(出所)アニコム損害保険

 筆者もブリーダーに勧められてペット保険に加入した。少しでも体調の変化が見られた場合には、金銭的にそれほど気にせずに獣医師に診てもらうことができるため何かと安心だ。2匹で月々7500円の保険料もその対価だと考えると決して高くはない。

 サービスに関しては個人的に今後、市場の広がりを期待するのが旅行分野だ。筆者は旅行好きだが、犬同伴での公共交通機関での長距離移動にはかなり制限があると感じている。また、犬と一緒に泊まれる宿の選択肢は非常に少なく、2匹となるとよりハードルが高い。ペットフード協会によると、犬を飼いたいのに踏み切れない理由として「旅行などの長期外出がしづらくなるから」と回答した人が最も多かったという。

 こうしたニーズを汲み取ってか、北九州市の航空会社「スターフライヤー」が2022年3月、国内線の飛行機では初となるペットと一緒に機内に搭乗できるサービスを開始した。長距離フェリーの一部ではペット同伴で泊まれる個室も提供されているという。いずれは交通機関だけでなく、宿側にもこうした動きが広がっていけば、ペットを飼う人がさらに増えるかもしれないと感じている。

写真友だちの犬との集合写真
(写真)筆者

芳賀 裕理

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